太田ネフロクリニック

太田ネフロクリニック

———酒井先生は、小学生のころ医師を目指したそうですね。
酒井
:ええ、近所の小さな医院でたびたび受診しているうちに、お医者さんってすばらしい仕事だと思いました。小さいころは風邪をひきやすく、よく熱を出していたんですよ。子供ですから最初は漠然としていましたが、中学、高校になると外科医になりたいと。

しかし実習を重ねるうちに外科は無理だと悟ったんです。私は左利きだからです。手術の際、患者さんをはさんで向かい合わせにおこなうのですが、向かい側の右利きの術者と私の左手がぶつかるんですね。右利きの人と一緒に手術するのは無理だなと。

———結果的に透析専門のクリニックを開業されました。
酒井
:大学時代は“山男”でした。大学の診療所が北岳にあるからです。北岳は、富士山についで2番目に高い山です。怪我をした登山者や高山病、熱中症など体調不良の方の診療活動をするのですが、なにしろ南アルプスにありますからね。山歩きばかり。

大学卒業後は横浜にある大学の分院に勤め、次は長野県の大きな病院。さらに同じく長野県ですが、人口5,000人の無医村へ。単身で長野県内を6年間過ごした後、いわき市の医療法人に勤務。

数多くの病院に勤めましたが、どの病院でも感じたことがありました。看護師の離職率が高いことです。前向きな転職ならかまいませんが、転職しても待遇が変わらない。患者はもちろん、働く人ももっと幸せでなければならないと思いました。私自身も、自分のペースで仕事をしたくて、平成18年(2006年)に開業しました。

———酒井先生は開業当初から「離職率を下げたい」とおっしゃっていますよね。
酒井
:ええ、開業時より留意していることが3つあります。

1…できるだけ長く勤めてもらう。
2…女性が多い職場なので、配偶者の転勤による離職を想定し、スキルアップを全面的に支える。
3…クリニックのブランド化、地域貢献。言い換えると、従業員が自慢に思えるクリニックにするということです。

従業員の働きやすさ、あるいはクリニックの医療としての質を表す指標はいくつもありますが、離職率はとてもわかりやすいものさしだと思います。業務内容が多岐にわたったり、労働時間が長かったりすると、従業員は長続きしません。それに離職率が高ければ医療の安全性は保てません。従業員の熟練度は上がりませんからね。

だからといって、従業員数が多ければいいというものでもありません。人数が多くても、少なくても労働効率は下がりますから。

———労働生産性を向上させることが重要なのですね。
酒井
:一般的には、少子高齢化による労働人口の減少が原因の人材不足が言われておりますが、業務の効率化(DX)、機械化、無人化で将来的には雇用は少なくなります。

医療、介護は最終的には「人」が大事で無人化できない面が沢山あります。将来的には技術革新で職があふれた人達が、医療介護方面、ギグエコノミーに向かうことが予想されます。

熟練度の低い人が来ても医療現場は混乱をきたすだけ、今のうちに少数精鋭の集団にしておくことが大事です。

———離職率の低下は、すなわち従業員の長期雇用を導き、業務の経験値が高まることで労働生産性が向上するという流れですね。
酒井
:それだけではありません。業務の効率化を図るには、透析業務に特化することも不可欠です。基本的に医療機関に勤めている人は使命感に燃えている真面目で良い子がほとんどです。クリニックの要望、患者さんの要望に出来るだけこたえようと一生懸命になります。こちらが仕事内容の線引きをしてあげないと、患者さんの要求水準が高くなり疲弊してしまいます。患者さんの要望にはキリがないですし、甘えも出てきますから…。

疲弊していても医療スタッフは何とか要望に応えようと無理をしてしまう。やってやれないことが多いとストレス、心理的重荷になってしまいます。ここで、「これやっていないじゃないか!」なんて言っちゃうと心が折れて離職につながります。「◎◎さんの要望、わがままに過ぎません、治療に関係ないから気にしなくて良いよ」と理解するだけでも心理負担は違います。あと、「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが、困ったことがあったら一人で解決せずにみんなで解決すれば良い。セクショナリズム撤廃も重要だと考えます。

———「ネフロ版働き方改革」が着々と進んでいますね。スタッフにとっても、患者さんにとっても、そしてクリニックにとっても望ましい方向に進んでいますね。
酒井
:まだまだ改革途中です。スタッフには、「野球からサッカーへ!」と伝えています。野球は延長戦がありますが、サッカーは90分を過ぎてもロスタイムとPKしかありません。つまり、野球は残業があり、サッカーは残業がない。

野球は守備範囲が決まっているが、サッカーは各自が常に動き回っている。野球はピッチャーの運動量が多いが、サッカーはみんなが同じように動いている。

全員参加型の仕事により、お互いが臨機応変に支え合う体制をつくっていきます。みんながハッピーになれる職場になれる。そう確信しています。

太田ネフロクリニック
〒313-0043 茨城県常陸太田市谷河原町字渋井1-1660
TEL 0294-80-5031
https://www.nephroclinic.net/