新日本工芸 株式会社

新日本工芸株式会社 代表・大曽根和人氏

———新日本工芸さんの「事業内容」は、「神社・寺院授与品の奉製・奉仕」となっていますね。ホームページを拝見すると、「お守り」をつくっている会社ということでしょうか。
大曽根:正しく申し上げると、“お守りになる前”のものをつくり、神社やお寺に納めている会社です。私たちがつくっている段階では、まだお守りじゃないんですね。神社やお寺で祈願し、魂を入れて初めてお守りになるからです。私どものお客様の8割くらいは神社さんですが、神社さんやお寺さんが扱うお守りや絵馬などをつくるお手伝いをしているので「奉製・奉仕」といいます。

弊社の前身は昭和36年(1961年)創立の日本工芸という会社です。その後、新日本工芸という現在の社名になりましたが、おかげさまで47都道府県すべてで奉仕しております。お守りや守護矢(破魔矢)、熊手やおみくじ、絵馬といった縁起物が主ですから、1月になると、もう翌年のお正月用の受注が始まります。1月から9月にかけて受注し、10月から12月の3カ月で売上の7割を納品します。

———先代は、大曽根社長のお父さんですよね。自分も継いで3代目に…という自覚はあったのでしょうか。
大曽根
:小学生のころから、東京への日帰り出張などにくっついて歩いていましたので、神社は身近に感じていました(笑)。一緒に手を合わせたりしたあと、父親は宮司さんや住職と仕事の話をします。僕はおとなしく待っているのですが、苦ではありませんでした。

僕が高校時代、営業部長だった父が、赤字の会社を引き継ぎました。僕は数字が好きで、高校は理数科でしたから、大学も東京の工学部へ。そのころから、いずれは水戸に戻って両親のめんどうをと思っていました。数字のほかに洋服も好きだったものですから、大学卒業後、2年間だけ好きな洋服の仕事をしてから入社しました。

おもに営業活動をしていたのですが、僕は自分のことを人見知りだと思っていたんです。ところが意外なことに、人と話すとおもしろいなと(笑)。年上の宮司さん、住職さんと商品のことについて打ち合わせをし、その奉製品が何千、何万と形になると、世の中に出回る達成感がありました。

———後継者候補として、なんらかの教育は受けていたんですか。
大曽根
:準備は何もしていませんでした。水戸本社を中心に営業をしていましたが、仙台営業所に行くことになったんですね。仙台に行く3カ月くらい前に、父が大腸ガンとわかりました。5年、仙台でがんばって水戸へ戻ってきたら、それから1カ月半で父は亡くなりました。僕が仙台から戻るのを待っていたかのように。父が73歳、僕が37歳のときです。僕は仙台を足がかりに東北、北海道を開拓していましたから、後継者教育はこれといって受けていません。何の準備もなく37歳で社長に。24歳で入社し、13年目のことです。

父は昭和20年生まれです。昭和の経営者であり、経営は完全に“昭和”のやり方。父を否定するということではなく、脱・昭和の経営を目指そうと思いました。社長が怒っている会社ではなく、ニコニコしている会社がいいなと。

———大曽根社長流の “働き方改革”をされてきたんですね。
大曽根
:まずは業務の平準化に取り組みました。繁忙期の負荷を減らしたかったんです。数字が好きなものですから、決算書を読んでいると、さまざまな問題点と解決策が浮かんできます。できるだけ平準化するほうが、従業員にとっても、生産においても望ましいと判断しました。

営業には、年末に向けて忙しくなる傾向がありました。神社やお寺が発注するのは年末近くなってからですから。そこを4月、5月、6月に前倒しで発注してもらうよう働きかける努力をしてもらいました。

社内の生産部門も、暇な期間と超多忙な時期とに分かれていましたが、いまは大きく改善できました。当社は毎月20日締めですが、4月20日締めの記録を見ると、残業は15分間だけですから。30人規模の会社ですが、全従業員で計15分のみ。少ないでしょう(笑)

———3代目に就任して3年が経ちました。商品戦略や営業戦略など、お客様を向いた分野は体制が整ってきました。あとは組織づくりですね。
大曽根
:いい会社をつくるうえで労務管理は非常に大切な時代になりました。昔のようなワンマンは成り立たないのかなと思います。ついこの前までは、なにかというとパワハラだ、セクハラだと、経営者にばかり負担がいく世の中でした。指示するだけでパワハラと言われそうでしたからね。

だからといって、なんでも就業規則にのっとって、労務を管理し、ルールを逸脱した社員を処罰化していくのは違う。感情で経営してはいけないが、情がないのもうまくいかない。統制のとれた組織をつくりつつ、いかにホワイトに持っていくか。

経営者がブラックでなければホワイト企業になれるとは限りませんからね。経営者はもちろん、従業員もお客様も取引先も、すべてがホワイトでなければホワイト企業になれません。どこかがブラックだと、たとえば従業員が悪さをしたり、お客様が無理な要求をするようでは、ホワイト企業になれないということです。

完璧な会社にはなれないと思いますが、できるだけ社員の不満をなくし、いい会社に近づけていきたいです。

新日本工芸 株式会社
〒311-4153 茨城県水戸市河和田町3891
TEL 029-251-0997
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