老舗旅館「向瀧」のホワイト企業への道

向瀧

温泉ソムリエ・大泉敦史としては、一度は泊まっておきたい福島県会津東山温泉にある老舗旅館「向瀧(むかいたき)」。
近年は、テレビや雑誌にも取り上げられていて、口コミサイトでも高い評価を得ています。

そんな向瀧も労務管理ではかなり苦労されたようです。

顧客も従業員も満足度の高い宿

福島県会津若松市の東山温泉にある向瀧は、創業明治6年(1873)、平成8年(1996)には国の登録有形文化財に指定されたほどの老舗旅館です。

24室の古い木造旅館ですが、あえて“古くて不便”を強調することで、最新のホテルにはない価値を生み出し、個人客に人気です。

2015年5月には世界最大の旅行口コミサイト「Trip Adviser」において、「2015年エクセレンス認証」を受賞。この賞は優れたホスピタリティを提供し、同サイトで高い評価を得続けている施設に認定されるものです。

「心が洗われるような癒やしのお宿でした」
「ともかく、スタッフが良い。専属の仲居さんもつくし、いたれりつくせり」
「若いのに従業員の方の教育が良くされている」
「旅館は期待以上のものでしたが、もっと感激したのが、スタッフの皆さんの心配りです」

これらは「Trip Adviser」や向瀧のホームページに記されたお客様の声から拾ったものです。顧客満足の高さに加え、従業員の方も誇りを持って仕事をされていることがうかがえますね。まさに“ホワイト企業”と言えます。

しかしその向瀧も、かつてはホワイト企業とは程遠いものだったのだそうです。

なにも管理していなかった

順風満帆にも見える向瀧の成長ですが、2003年に入社した女将の平田真智子さんによると、当時の労働環境はさまざまな問題を抱えていつつも、昔のままでよしとしている風潮だったといいます。

ここからは「日経ビジネスONLINE 四面楚歌の女将が挑んだ旅館の労働改革」に掲載された平田真智子女将と、2002年に社長に就任した6代目・平田裕一社長のインタビューから、向瀧のホワイト企業への道を探ってみます。
参考:http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140526/265407/?rt=nocnt

平田真智子女将

私が2003年にこの旅館に入社したとき、会社の労働環境にさまざまな問題があることに驚きました。例えば、人事書類を確認しても履歴書がない社員がいたり、有給休暇がまったく取れていないといったことです。向瀧は歴史のある会社と思っていましたが、労働環境まで“昔のまま”が残っているような印象でした。

社員を雇用するときの手続き、雇用に関する法律、36協定など、本来ならちゃんとやらなければいけないことを誰もわからない状態でした。古くから続く老舗と呼ばれる会社はこんな状態だったのかなと心底驚きました。
この曖昧さを明確にするために、自ら聞きに行こうと動き始めました。2003年9月にまず地元にある労働基準監督署に行って「教えてください」と頼み込みました。最初は必死だったんです。

給料の管理を経営者が自ら行っていないだけでなく、担当者の好き嫌いで残業代や有給休暇の処理などが行われていました。(中略)組織としてのチェック機能が働いていなかったということです。

それまでの向瀧は、すべて「まぁいいから」「みんな仲良くな」という感じでした。自分達はなんのために働いているのかを考えてもらえるようにするために、働く環境を整備して、この向瀧をそこからなんとか“普通”の会社にしたかったのです。

労働環境を整備し始めると

平田真智子女将

それまでいい思いをしていた社員からの反発が強まっていたのです。当たり前に必要な改革を進めていきますと、そのような社員たちは辞めていきました。(中略)向瀧を普通の会社にしていくにはそれでよかったのかもしれません。

平田裕一社長

(給料体系は)不真面目な社員が徳をして、真面目な社員が損をする状況で、会社として社員を正しく管理して動かしていこうという意識はゼロ以下でした。

2003年12月のことです。(中略)“みんなの働きやすい職場環境のための改革”と言って説明会を行いました。みんなで実行しようとも呼びかけました。

根気よく新入社員を採用し続けたら、昔からのベテラン社員の勢いが少しずつなくなり、あるところで形成が逆転しました。

具体的にどう取り組んだのか

平田真智子女将

向瀧では、お客様へのサービスが向上するための生産性向上を目指しています。単純に時間が短くなることではなくて、時間を作り出し、その時間をお客様対応に使うことが大切です。

(予約の返信について)お客様一人ひとりに合わせた、心をこめた返信内容にするために、お客様をイメージして、お客様の“想い”を思い浮かべ、その浮かんだ想いを、できるだけ早く返信できるようにしています。この返信が早いことも、お客さまが望まれる状態ですよね。

平田裕一社長

社長を引き継いだときに、加工品は全て止めて、すべての料理を手作りに戻すと宣言しました。それにより、調理場の板前は揃って辞表を出して、向瀧を去ってしまいました。大きなピンチではありましたが、同時に、思い描いた料理に替えていくチャンスでもありました。

会社の考えが正しいと社員もわかってくると、社員たちからも提案が出てきます。以前の到着時のお菓子は、お土産で売っているお菓子をそのまま出していました。これを、社員の提案により、季節によって変わる手作り羊羹に変わりました。この改善は好評で、お客様にとても喜んでいただいています。(中略)今では、献立のすべてが社員のアイデアで構成されるまでになりました。

「先人の教えを変えてはいけない」と、今のやり方を変更することを嫌がりがちですが、(中略)「すべての動きはお客様につながっている」という意識を持ち、調理場のかかりがより働きやすい労働環境にするのが肝要です。

このように、経営者が自らホワイト企業になるために努力している姿勢に頭が下がります。

このほかにも、「顧客ターゲットの絞り込み」「サービスの絞り込み」など、お客を増やすための逆転思考が詳しく描かれており、向瀧の“ホワイト企業への道”はとても参考になる事例です。

詳細を知りたい方はこちらからご覧ください。
日経ビジネスオンラインより
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140526/265407/?rt=nocnt
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